2013年12月24日火曜日

木造住宅の壁量計算を深く理解する その2 「風圧力に対する必要壁量」

今回は木造2階建て住宅(四号建築物)の仕様規定における、令46条壁量計算の解説第2弾、「風圧力に対する必要壁量」の解説です。

風圧力に対する必要壁量の算出
風圧力に対する必要壁量は、

  必要壁量=見付け面積×見付け面積に乗じる数値

で計算します。

見付け面積とは建物に風があたる立面上の面積のことです。
見付け面積の計算は柱芯ではなく外郭線(仕上げ等の最外面)で計算します。

時々見付け面積を計算する際、CADから建物の凸凹を正確に拾い出していることがありますが、見付け面積は少し大きめに算出した方が安全側の設計となります。
そもそもCAD上の建物の凸凹自体、本来の仕上がりとは違う可能性が高いのですから、細かく面積を算出するのはやめましょう・・。

見付け面積について
見付け面積は、各階床面から1.35mより上の面積とします。
なぜ、1.35mより上なのでしょう??
これは階高を2.7mと想定したとき、階高の1/2の値が1.35mで、
階高の上1/2は、その階の耐力壁が風圧力を負担し、
階高の下1/2は、下階の耐力壁が風圧力を負担すると考えられています。
よって、床面から1.35mより上の見付け面積を算出するのです。

ちなみに1階の下1/2は土台→基礎→地盤へと風圧力は伝達されます。

現在の木造住宅の階高は2.7mより高くなっていると思います。
その場合は、床面から1.35mより上の見付け面積を計算すると実際の階高1/2より多めの見付け面積となるため、風圧力に対する必要壁量は安全側の設計となります。

逆に、階高が2.7mより低い場合は床面から1.35mとせず、実際の階高の1/2より上を見付け面積として風圧力に対する必要壁量を算出しましょう。

見付け面積に乗する数値について
見付け面積に乗ずる数値は50cm/㎡が一般的に使われています。特定行政庁が特に強い風が吹くとして定めた地域においては50~75cm/㎡が係数として定められています。

見付け面積に乗ずる数値の50cm/㎡は旧風圧力基準において風速50m/secを想定して決まった数値です。

見付け面積と耐力壁の注意点
風圧力で最も注意する点は、見付け面積と計算する耐力壁は直行していることです。
もう少しわかりやすく言うと、X方向の壁量計算を行うにはY方向の見付け面積にて必要壁量を算出することになります。
建物の壁に風があたった場合、直行する耐力壁が倒れないように支えるイメージです。

各階・各方向の必要壁量決定
地震力に対する必要壁量(前回解説)および風圧力に対する必要壁量を算出したら、各階・各方向にて必要壁量を決定します。
必要壁量の決定とは、地震力、風圧力のどちらか大きい方の必要壁量を各階の各方向ごとに決めることです。

次回は、存在壁量の算出と壁量の判定について解説します。


2013年12月13日金曜日

木造住宅の壁量計算を深く理解する その1 「地震力に対する必要壁量」

階数が2階建て以下、延床面積500㎡以下、最高軒高9m以下、最高高さ13m以下の木造住宅は、四号建築物と呼ばれ構造安全性検討は「仕様規定」として建築基準法施行令に規定されています。

仕様規定では令46条に「壁量計算」があり、木造住宅は地震力、風圧力に対する安全性を壁量計算にて確認することになります。

この壁量計算はとても簡単なため、結構甘く見られています。
しかし、この壁量計算は深く理解することで木構造の基本がわかって来るのです・・。

令46条の壁量計算は、各階(1,2階)、各方向(X,Y方向)の地震力及び風圧力に対する「必要壁量」を算出し、実際に配置する耐力壁による「存在壁量」が多いことを確認する計算です。

噛み砕いて説明するとこんな感じです。
・必要壁量
壁量計算しているこの木造住宅に作用する地震力に対抗するためには、 これだけの耐力壁の量が必要ですよ
・存在壁量
設計上配置する耐力壁はこのくらいの量になります
・判定
必要としている壁量に対して、設計上配置する存在壁量の方が多いため この木造住宅は地震に対して抵抗でき安全ですよ

必要壁量は、地震力又は風圧力のうちどちらか大きい方を各階、各方向ごとに採用します。
例えば、こんな感じです。
2階X方向 必要壁量→ 地震力のほうが大きいため地震力で決定
2階Y方向 必要壁量→ 風圧力のほうが大きいため風圧力で決定
1階X方向 必要壁量→ 地震力のほうが大きいため地震力で決定
1階Y方向 必要壁量→ 風圧力のほうが大きいため風圧力で決定


地震力に対する必要壁量の算出
地震力に対する必要壁量の算出についてポイントを説明します。

地震力に対する必要壁量=床面積×床面積に乗ずる数値
で計算します。
「床面積」は見下げ面積で、通常の建築基準法に準じて算出している床面積のことだと思ってください。
「床面積に乗ずる数値」とは、令46条に規定されており、
計算する木造住宅の屋根仕上げにより「重い屋根」、「軽い屋根」
階数により「平屋建て」、「2階建ての2階」、「2階建ての1階」
ごとに必要壁量の数値が決められています。単位はcm/㎡です。

ちなみに「床面積に乗ずる」とは床面積に掛け算してくださいという意味です。

この数値は、屋根仕上げが重いほど大きくなり、建物規模が大きくなるほど数値も大きくなります。
ここが重要で、建物重量が大きくなると作用する地震力も大きくなるため、必要壁量が多くなります。
よって、存在壁量を多めにします。

これを偏って解釈されていることが多く、
「瓦屋根は重量が大きくなり地震に弱い!」となってしまいます。

これは大きな間違いです。
繰り返しますが、「瓦屋根は重量が大きくなり地震力が多く作用します。なので耐力壁を多めに配置して安全性を確保しましょう」となるのです。
決して瓦屋根の木造住宅が地震に弱いわけではありません。

積雪量を考慮した必要壁量
この床面積に乗ずる数値には積雪量を考慮したものがあります。
2×4工法の告示(平成13年 国土交通省告示第1540号第五)に規定されているのですが、
積雪量を考慮して数値が大きく設定されています。

雪の多い地域は多雪地域に指定され、県条例などにより積雪量が決められています。
よって、多雪地域では積雪量を考慮した必要壁量を算出することをお勧めします。

緩和措置
必要壁量算出には、緩和措置があります。
・バルコニーの緩和措置
床面積に参入しないバルコニーは、地震力に対する必要壁量算出用の床面積にも参入しなくてよい。こんな緩和措置です・・・。

これをもっと深く考えてください。

先に説明しましたが、「建物重量が大きくなると作用する地震力も大きくなる」
この基本を忘れずに考えればすぐにわかることですが、
バルコニーは建築基準法上 床面積に算入しなくても、存在していることで重量は発生しています。
実際にバルコニーのある木造住宅はバルコニーの重量分重くなっているのです。

と言うことは、バルコニー面積も床面積に算入し必要壁量を算出した方が安全側の設計になります。
これは強制ではなく「設計者判断」となります。
地震力のことをちょっと理解できれば、バルコニーを無視することはできないはずです。

ちなみに、幅5.46m×奥行0.91m=4.97㎡のバルコニーを、重い屋根の2階床面積に算入して必要壁量を算出してみます。

重い屋根、2階建て2階の床面積に乗ずる数値=21cm/㎡
バルコニー追加分の必要壁量=4.97㎡×21cm/㎡=104.37cm

筋かい4.5cm×9.0cm片掛け 壁倍率2倍の耐力壁がどれくらい必要か
計算します。

必要壁量104.37cm÷壁倍率2倍=52.19cm(0.5219m)
*柱芯間距離0.91mに筋かい4.5cm×9.0cm片掛けの耐力壁があればバルコニーの面積増加分は十分カバーできるのです。

・小屋裏収納の緩和措置
小屋裏に収納がある場合、直下階の床面積の1/8以下であれば床面積に算入しなくてよ。さらに天井の高さにより、小屋裏収納の床面積を緩和することもできます。

これも、バルコニー同様に考えましょう。
小屋裏収納がどんなに小さくても存在していれば重量は発生します。
と言うことは、緩和するための計算方法を一生懸命覚えるよりも、
地震力のことを考えて、床面積に算入して必要壁量を算出した方が安全側の設計となります。
これも強制ではなく「設計者判断」です。

以上、地震力に対する必要壁量算出には、地震力の特徴をちょっとだけ理解しているだけで精度の高い安全側の設計が可能になります。
この提案を過剰設計と思うかどうかは設計者の判断となります。
しかし、この程度の安全側の設計が過剰設計となるような木造住宅自体がかなりの過小設計と考えるべきだと僕は思います。

次回は、風圧力に対する必要壁量について解説します。

■お問い合わせ■
㈱M's構造設計Mail
info@ms-structure.co.jp(佐藤実直通)

㈱M's構造設計HP
http://www.ms-structure.co.jp/

構造塾HP
http://www.ms-structure.co.jp/kozojuku.html

佐藤実Facebook
https://www.facebook.com/minoru.sato.165

㈱M's構造設計Facebook
https://www.facebook.com/ms.structure/

構造塾Facebookグループ
https://www.facebook.com/groups/332629670201418/

2013年12月6日金曜日

面材耐力壁の基準

木造住宅の耐力壁には、筋かい耐力壁と面材耐力壁があります。
今回は、面材耐力壁の基準です。

面材耐力壁の幅は、柱芯間距離で600mm以上、
高さは、幅の5倍までです。
最大幅は筋かい耐力壁同様に2m程度までです。

高さの基準は構造階高で、横架材上端距離です。

柱芯間910mmの面材耐力壁は、
4,550mmの構造階高まで耐力壁となります。
階高の高い住宅は筋かい耐力壁よりも面材耐力壁が有効です。

面材耐力壁の面材継手部分の間柱は45mm×100mm以上とします。
面材継手部分は面材を留めつける釘が2列並ぶため、
間柱幅は45mm必要となります。

間柱は30mm幅で間隔455mmが多く、一般的な面材幅は910mmのため、間柱は30mm幅、45mm幅が交互に必要となります。

次に、よく使われる面材耐力壁には3種類の仕様があります。
各仕様と使える面材種類、施工可能箇所を理解し使ってください。

①大壁仕様
大壁は面材を上下横架材、左右の柱と中間の間柱に、
上から覆うように釘留めする仕様です。
主に、外周部に「構造用合板」を張る仕様です。

②受け材仕様の真壁
横架材、柱の内側に30mm×40mm以上の受け材を設置し、
この受け材に面材を釘留めする仕様です。
主に、室内側に「面材」を張る仕様です。

③床勝ち仕様の大壁
大壁同様の仕様ですが、下側だけ床の合板が先施工された状態(床勝ち)で、床合板上に30mm×40mm以上の受け材を設置し、
下側のみ受け材に面材を釘留めする仕様です。
主に、室内側に「石膏ボード」を張る仕様です。

各仕様の注意点を挙げます。
①大壁仕様は、構造用合板、石膏ボードとも耐力壁として使用可能ですが、
主に外周部に面材を張る仕様です。
外周部は防風・防雨措置をしても雨などの水気にあたる可能性があるため
外周部の面材耐力壁に石膏ボードは使えません

②受け材仕様の真壁は、構造用合板、石膏ボードとも耐力壁として使用可能ですが、主に室内側で使うため、床の合板が負けてしまいます(後施工となり、横架材芯まで張れない)。
床合板は水平構面として重要な役割があります。
よって、床合板を勝たせた方が住宅の耐震性能は上がるため、
室内側は筋かい耐力壁が有効です

③床勝ち仕様の大壁は、上記②の床が負けないようできた仕様です。
しかし、告示上は石膏ボードのみの仕様のため、
構造用合板には使えません

以上をまとめると、
・外周部には構造用合板による面材耐力壁、筋かい耐力壁
・内部には石膏ボードによる床勝ち仕様の大壁耐力壁、筋かい耐力壁
となります。

室内側に構造用合板による耐力壁を使うにはちょっと問題があります。
注意してください。
*よく構造用合板両面張り壁倍率5倍(2.5倍×両面)の計算書をみます。
  水平構面もしっかりと厚床合板で耐力を確保しており、
  仕様を理解していると成立しない状態です。
  残念なことに、このような計算書が横行しており、
    このような計算書を指摘できず
  確認申請や長期優良住宅の技術的審査が通っています。

その他注意点としては、
・2階バルコニー床を室内床と同じレベルで合板を張る時があります。
その場合、下側の横架材に面材が張れないため、外周部でも構造用合板が使えないことがあります。
・下屋がある場合、2階耐力壁の下側が張れないことがあります。

面材耐力壁は筋かい耐力壁以上に注意点がたくさんあります。
よく理解して使ってください。
 
■お問い合わせ■
㈱M's構造設計Mail
info@ms-structure.co.jp(佐藤実直通)

㈱M's構造設計HP
http://www.ms-structure.co.jp/

構造塾HP
http://www.ms-structure.co.jp/kozojuku.html

佐藤実Facebook
https://www.facebook.com/minoru.sato.165

㈱M's構造設計Facebook
https://www.facebook.com/ms.structure/

構造塾Facebookグループ
https://www.facebook.com/groups/332629670201418/